第5回:couldとwas(were)able toは同じ意味ではないの?
Q.次の①と②の英文はどちらも「ピアノが弾けた」ことを表していますが、一体どのように違うのでしょうか。
① Mary could play the piano when she was four.
② Mary was able to play the piano when she was four.
英語が苦手な人であっても「できる」を意味するcanをうまく使って、I can’t speak English.くらいのことはスラスラと言えてしまうくらいcanの使い方は浸透しています。それでもcanと言い換えができる表現として習うbe able toについては、どこか不安、というより何が違うのかつかみきれないところもありますよね。
たとえば、このクイズではcouldの部分がwas able toに入れ替わっているだけなのですが、伝わる意味の違いをみなさんならどうやって伝えるでしょうか。今回のポイントになるのはbe able toが伝える「能力」と「達成感」です。
ある行動についてこのくらいならできるという「能力」を伝える分には、canとbe able toに大きな違いはありません。
(A) Hiroshi can run really fast.
(B) I am able to run fastest in my school!
(A)「ヒロシはとっても速く走れる」も(B)「僕は学校で一番速く走れるんだぞ」も「速く走れる」ことには変わりありませんが、be able toでは「能力」が強調されるので、やや自慢げな場面で使うことが多いくらいに考えておきましょう。これだけ見れば違いはわずかなものですが、canは助動詞なので「能力」以外に「許可」や「可能性」まで伝えることができる点で使い勝手がかなり良いと言えます。
(C) You can sleep on the sofa.
たとえば、(C)は「ソファで寝てもいいよ」と相手がしていいことを教えてあげているのであって、決して「あなたにはソファで寝る能力があるのね」と身体能力を分析しているわけではありません。こういう場面ではbe able toと交換するわけにはいかないのです。
そして、be able toの「能力」を強く伝えるという特徴が、過去形において「達成感」というcanとの違いにつながっていきます。
(D) I could pass the test.
(E) I was able to pass the test.
couldは、「その能力を持っていて、やろうと思えばできた」ことを表しますが、was(またはwere)able toは「努力の結果、実際にできるようになった」ことを伝えるときに使います。過去形になると伝わる意味もだいぶ違ってきますね。
つまり、(D)は「試験に合格しようと思えばできた」と言っているだけで、実際に試験を受けたのかまでははっきりとしません。なんだか負け惜しみのセリフにも聞こえます。一方、(E)は「(実際に)試験に合格した」と言っているので、こちらは間違いなく嬉しい報告です。
もちろん、notがつけばどちらの英文も「不合格」であることがはっきりするので、意味に大きな違いは生まれません。試験に受かるだけの能力がなかったのですから仕方ありませんね。
冒頭のクイズもこれと同じです。①ではピアノを弾けるようになったのは3歳かもしれませんが、②はwas able toが使われているので、4歳で初めて弾けるようになったことがわかります。①「4歳のときにはピアノを弾くことができた」と②「4歳のときにピアノを弾けるようになった」のように訳すと、違いをうまく伝えることができそうです。
では、この違いを子どもたちにどのように伝えればいいでしょうか。「ableは『できること』を強く伝えるから、ここでは『うまくできた!』っていう達成感があるんじゃないかな」とヒントを与えてみると理解しやすくなるかもしれません。(C)のようにcanしか使えないような英文にbe able toを使って少し滑稽にすることで、どこがおかしいのか考えさせるのもいいですね。
もちろん、こういった表現の微妙な違いについてあまり細かく扱いすぎると、その難しさから英文法が嫌われてしまう可能性だってあります。それでも、「いつかはこういう表現の違いを感じたり、使い分けられたりしたら楽しいよね」と英語が上達した姿を想像させてみると、子どもたちのやる気が高まるきっかけになるかもしれませんよ。
神奈川県立多摩高等学校教諭
大竹保幹(おおたけ やすまさ) 先生
1984年、横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーヴン・キング。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』、『まんがでわかる「have」の本』(アルク)。
本書では、30パートの英文法の項目ごとに分かりやすい言葉で説明しています。冒頭にはクイズが用意されており、また雑学的な小話も盛り込まれているので、楽しみながら英文法を復習することができます。