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第7回:受動態と能動態はいつでも書き換えができるの?

子どもに聞かれて困らない英文法のキソ[子ども英語先生編]
2019/11/6up
子どもたちの疑問や質問の答えに窮したことはありませんか? 子どもたちに英文法を分かりやすく説明するのは、なかなか簡単ではありませんね。 ここでは、『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』(アルク刊)の著者である大竹やすまさ先生に、子ども英語の先生に向けて、本書の中から新たに加筆いただいた内容(全12回)で、分かりやすくご解説いただきます。

第7回:動態と能動態はいつでも書き換えができるの?

Q.次の①と②の英文は同じ意味でしょうか。もし違うとしたら、どのように意味が異なるのでしょうか。

① Taro likes soccer.

② Soccer is liked by Taro.

ネコがネズミを追いかける。ネズミがネコに追いかけられる。このような例文を使って、能動態と受動態の違いを伝え、ひたすら「書き換え」の練習をする。もちろん、練習は英語で行われますが、こういった訓練は学校などでは当たり前のものとなっています。しかし、本当に受動態はいつでも書き換えができるのでしょうか。

クイズの英文は①と②で基本的には同じようなことを言ってはいますが、①の英文のほうが明らかに自然です。では、それはどうしてなのでしょう。今回のポイントは、受動態が使われる理由にあります。

受動態では、主語が「される」側になるので、「する」側はbyを使って表すのが基本でした。

(A) Tom broke the window yesterday.

(B) The window was broken by Tom yesterday.

(C) The window was broken yesterday.

(A)「トムが窓を割った」のか、それとも(B)「窓がトムに割られてしまった」のか、「話し手の視点」をどちらにもっていくかによって使われる態を変えていくことになります。しかし、窓を割った犯人がいつもわかるとは限りません。そんなときにはby以下を使わずに(C)のように言うことができるというわけです。誰がやったかを言う必要がなくなるというのは、受動態の大きな特徴の一つです。

逆に言えば、誰の行為なのかが当たり前のときや、はっきりしないときにはby以下を使わないのが普通だということです。

(D) English is spoken in many countries.

(E) This car is made in Japan.

(F) This car is made in Japan by Taro.

もし、(D)「英語が世界中で話されている」にby peopleをつけてしまうと、動物や植物ではなく「人間」が話していることが強調されてしまいます。言わなくてもわかることを明示するとそこに話し手の意図を感じてしまうからです。

(E)では車を作っているのが「工場」なのか「従業員」なのかと、誰の行為であるかを示すのが難しい例です。そもそも、日本製であることを伝えたいだけであれば、「誰に」という情報は必要なさそうですが、ここで(F)のようにby Taroが付けられてしまうと、日本製であることよりも「太郎さんが作ったもの」であることが強く伝わってしまいそうですね。

冒頭のクイズもこれと同じです。by Taroがあると、そこに特別な意味を感じてしまうので、サッカーが太郎だけから好かれているような印象を相手に与えてしまいます。サッカーが好きなのは常識的に考えて太郎以外にもたくさんいるはずですから、英文としては①のほうが自然であるというわけです。

Soccer is liked by boys. のように人物を特定しなければ、一般的な話として受け入れられますが、どんな文でも受動態にできるわけではないことは知っておく必要があります。

では、このことを子どもたちにどのように伝えればいいでしょうか。今回のような場合であれば、「『サッカーは太郎くんから好かれている』って日本語としてどう思う?」と、学習者の直観から不自然さを感じさせてみるとわかりやすいかもしれません。(E)のような文を使って、by以下を想像させてみるのも受動態の意味をとらえる練習として面白いですよ。

文法ドリルなどでは能動態から受動態への書き換え練習があり、「形」に慣れるうえではそれ自体が悪いわけではありません。しかし、受動態を使う意味や、 by以下があえて表現されていることの意味を考えなければ、形だけの浅い理解にとどまってしまいます。英語の本当の気持ちを理解するためにも、文法を「考える」ことの大切さを伝えていきたいですね。

大竹保幹(おおたけ やすまさ)

神奈川県立多摩高等学校教諭

大竹保幹(おおたけ やすまさ) 先生

1984年、横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーヴン・キング。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』、『まんがでわかる「have」の本』(アルク)。

子どもに聞かれて困らない英文法のキソ

『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』(アルク)

大竹保幹(おおたけ やすまさ)

本書では、30パートの英文法の項目ごとに分かりやすい言葉で説明しています。冒頭にはクイズが用意されており、また雑学的な小話も盛り込まれているので、楽しみながら英文法を復習することができます。