第12回:andとorはどう使い分ける?
Q.「山も海もどっちも行きたくない」のを表しているのは①と②のどちらの英文でしょうか。
① I don’t want to go to a mountain and the sea.
② I don’t want to go to a mountain or the sea.
「太郎と花子」はTaro and Hanako、「赤か青」はred or blueというように、andやorなどの等位接続詞は基本的には「日本語の感覚」のまま使えるので、他の文法項目と比べると学習者にとっては気楽に使えることが多いといえます。しかし、だからと言って特に教えなくていいかというと、そんなこともありません。andとorは、notと一緒に使うときには少し注意しなくてはいけないからです。
冒頭のクイズは、週末に「山と海のどっちに行きたいか」と聞かれた子どもの返事を選ぶ問題です。「どっちも」というのは「両方」だと考えると、どうしてもandが使われている①を選びたくなってしまうのですが、それでは相手に間違ったメッセージを伝えてしまいます。この違いをみなさんならどう教えますか? 今回のポイントも「部分否定」です。
notがなければA and Bは「AとBの両方」、A or Bは「AかBのどちらか」の意味だと考えておけばほとんど問題ありません。
(A) You and I are friends. 君とぼくは友だちだよ。
(B) He turned and looked at me. 彼は振り返って、わたしのことを見た。
(C) Which do you like better, cats or dogs? 猫と犬だったらどっちが好き?
(D) Stop, or I’ll shoot! 止まれ! さもないと打つぞ。
(A)ではYouとIがandでつながっているので、「君とぼくの両方」が友人であることを表しています。また、(B)は動詞が並べられているので、turned(振り返った)とlooked(見た)という動作を続けざまに両方とも行ったことがわかります。
一方で、orは「選択」を表します。 (C)では「好きなのはどっち?」と相手に選ばせていますよね。 (D)のように命令文と組み合わさっているものは構文として、「〜しなさい。さもないと…」のように覚えてしまうのも手ですが、「君が止まるか、わたしが撃つかのどちらかだぞ」と相手に選択をせまっているので、orの基本的な意味を保っていると言えます。選択肢を提示しているイメージですね。
それでは、notとの組み合わせをどのように考えればいいでしょうか。
(E) She speaks both German and French.
(F) She doesn’t speak both German and French.
notとandの組み合わせについては、bothを入れるとわかりやすいでしょう。both German and Frenchは「ドイツ語とフランス語の両方」なので、(E)では両方の言語を普段から話していることになります。ところが、(F)のようにnotが加わると、「両方であること」が否定されます。つまり、彼女は「『両方の言語を話せる』というわけではない」、言いかえれば、彼女は「ドイツ語かフランス語のどちらかしか使えないよ、両方なんてとんでもない」ということです。このような部分否定になるのは、bothがあってもなくても変わりはありません。
(G) She speaks German or French.
(H) She doesn’t speak German or French.
orは「選択肢」を提示しているイメージが大切でした。(G)は「ドイツ語」と「フランス語」を相手に示して「彼女はどちらかなら話せる」のだと伝えています。これをもとに考えれば、notが付いた(H)の文は、「彼女はドイツ語とフランス語のどちらを示されても話せない」という意味を表すことになることがよくわかります。notとorの組み合わせが「どちらもない」になるのは、こういう理屈があるからなのです。
冒頭のクイズもこれと同じです。①では「両方」が否定されるので、「『山と海の両方に行きたい』というわけじゃない」というややこしい意見になってしまいます。②はorとの組み合わせで、「どっちにも行きたくない」ことを表しているので、正解はこちらですね。
では、このことを子どもたちにどのように教えればいいでしょうか。たとえば、「犬と猫を両方とも好きってわけじゃない」というような日本語を使って、部分否定の感覚を理解させてからnotとandを組み合わせた英文に触れるとわかりやすいかもしれません。もちろん、構文として覚えさせるのも悪くはありませんが、理屈を知っていると記憶に定着しますし、なにより英語の心に少しだけ近づいたような気がしませんか?
andもorも英語を習いたてのころに覚える基本的な語です。それだけに文法的な説明や成り立ちについてはどうしても省略してしまいがちですが、あえてそのしくみを考えさせることで英語に対する理解が深まることもあるはずです。文法は数学で扱うような公式でも、パズルでもありません。文法は「生きていることばのしくみ」です。少し時間はかかりますが、こういった積み重ねが「英語の感覚」を養うことにつながるのだと信じています。
神奈川県立多摩高等学校教諭
大竹保幹(おおたけ やすまさ) 先生
1984年、横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーヴン・キング。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』、『まんがでわかる「have」の本』(アルク)。
本書では、30パートの英文法の項目ごとに分かりやすい言葉で説明しています。冒頭にはクイズが用意されており、また雑学的な小話も盛り込まれているので、楽しみながら英文法を復習することができます。