第13回:”It is baking bread.” まったく同じ英文で意味が異なる?
Q.①と②の下線部には同じ英文が使われていますが、どうやら伝えられている意味は違うようです。一体、どのように違うのでしょうか?
① “What is your hobby?” “It is baking bread.”
② “Look at the robot! It is baking bread.”
みなさんにとって動詞の-ing形は「動名詞」でしょうか。それとも「進行形」や「現在分詞」でしょうか? be動詞の有無など使い方に違いはありますが、英語学習者にとって動詞の-ing形は「同じ形をしているのに『〜すること』や『〜している』など意味がコロコロ変わってややこしい存在」の一つでしょう。冒頭のクイズのようにbe動詞と一緒に使われているときは、どちらで解釈していいのか迷ってしまいます。
文法の形をしっかりと覚えたはずなのに、どうしても英文解釈が苦手。こんな子どもたちには一体どのような教え方が必要なのでしょうか。今回のポイントは「文脈」です。
まずは動詞の-ing形がどのような意味を生み出すかを確認してみましょう。
(A) Small fish are swimming in the river.
(B) Can you see that boy swimming in the pool?
(C) Swimming is very good for your health.
英文法を習う順番に正解はないのですが、多くの人は(A)のような「現在進行形」という形で動詞の-ing形を知ることになります。be動詞と一緒に使われることで、「~しているところだ」という意味になるのはみなさんご存知のとおりです。(A)では、小さな魚たちが川で泳いでいる様子を伝えています。
同じように「~している」のイメージのまま理解できるのが、(B)のような「現在分詞」として使われるときです。ここでは直前にある that boy に後ろから説明を補足して「プールで泳いでいる男の子」が見えるかどうかを聞いていますね。名詞に説明を加える感じが「形容詞」と非常によく似ているのが特徴です。
ところが、(C)は少し様子が違います。文頭で、しかもbe動詞の前にありますから明らかに名詞です。このように動詞の-ing形は「動名詞」として「~すること」という意味を表すことができるのでした。これは「~している」という意味だけで覚えてきた学習者にとってはかなり衝撃的です。それでも解釈にそこまで困らないのは動詞の-ing形の位置がわかりやすく主語であることを伝えてくれているからでしょう。
では、動詞の-ing形が紛らわしい位置にあるときには、どうしたらいいのでしょうか。そのヒントを「同じ形」で「違う意味」を表す文から考えてみましょう。
(D) I read a book.
(E) Reading is exciting.
学校の定期試験などで(D)の日本語訳をしなさいという問題があったとしたら、それは非常に残酷ですよね。それもそのはず、read は「読む」という現在形と「読んだ」という過去形が同じ形をしているからです。もちろん、耳で聴くときには発音の違いから正確な意味を判断できますが、文字で見ているだけでは「本をいつも読む」のか「本を読んだ」のかはわかりません。仮に What do you usually do in your room?(部屋で何することが多い?)といった会話の流れがあれば、(D)のような副詞のない文でも問題なく相手に伝わるでしょう。
(E)は一般的には「読書は楽しい」という意味で解釈されますが、イギリス好きの人には他の意味にも取ることができてしまいます。イギリスには Reading(レディング)という名の町があるからです。本に関する話をしているのか、それともイギリス旅行の話をしているのか。話の流れ次第で、英文の意味は変わることがあるのです。
冒頭のクイズもこれと同じで、It is baking bread. だけだったら永久に正確な意味を理解することはできません。しかし、①では What is your hobby?(趣味は何?)と聞かれているわけですから、この baking bread は「パンを焼くこと」という動名詞であると考えるのが普通です。一方、②では Look at the robot!(ロボットを見て!)とロボットの動きに注意を払っているので、「ロボットがパンを焼いている」という進行形の動作を伝えていることがわかります。わたしたちは「文脈」に助けられて英語を理解しているのですね。
では、このことを子どもたちにどのように伝えたらいいでしょうか。たとえば、「タイが好き」という日本語を与えて、「タイ」が国名なのか魚なのかをどうすれば判断できるかを考えさせてみることで、文脈の大切さに気付かせるというのも面白いでしょう。慣れてきたら、It is baking bread. のような英文の前後に1文ずつ付け足して文脈を作らせる練習などが考えられます。こうすることで文法を活用する意識が芽生えてくるはずです。
英文は「文脈」によって解釈が決まる。これは非常に当たり前のことですが、わたしたちが文法を教えるときに案外忘れてしまっていることでもあります。文法問題集などでは英文が1文だけで存在していることが多く、そこには「文脈」はありません。問題集でどんなに文法の練習をしても英文解釈ができるようにならないのは、そんな理由もあるはずです。英語も日本語と同じように、会話の流れによって理解していくものなのだということをしっかりと教えてあげましょう。
神奈川県立多摩高等学校教諭
大竹保幹(おおたけ やすまさ) 先生
1984年、横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーヴン・キング。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』、『まんがでわかる「have」の本』(アルク)。
本書では、30パートの英文法の項目ごとに分かりやすい言葉で説明しています。冒頭にはクイズが用意されており、また雑学的な小話も盛り込まれているので、楽しみながら英文法を復習することができます。