第14回:動名詞とto 不定詞の違いとは?
Q.次の英文はどちらも何かを忘れないように伝えています。これからおばあちゃんに会う予定があるのは①と②のどちらでしょうか。
① Don’t forget to meet your grandmother at the station.
② Don’t forget meeting your grandmother at the station.
「~すること」という日本語を英語にしようとするときに頭に浮かぶのは「to不定詞」と「動名詞」の二つです。どちらも同じ「~すること」を表す文法ならどっちかにしてほしいと、英語を勉強したことがある人なら一度は思ったこともあるのではないでしょうか。不定詞は動名詞と何が同じで、何が違うのか。これは学習者にとってはかなり難しい問題です。
冒頭のクイズではforgetという動詞が使われていますが、目的語がto不定詞のときと動名詞のときで表す意味がだいぶ変わってくるというのは教師であれば知っている知識です。しかし、なんでそんな違いが出てくるのかを伝えるのは容易いことではありませんよね。今回のテーマは「to不定詞の未来志向」です。
まずはto不定詞が「~すること」という意味で使われている例文をよく見てみましょう。
(A) To swim here is dangerous. ここで泳ぐのは危険だ。
(B) I want to sleep . 寝たい。
(A)ではto不定詞が文の主語として、(B)では動詞の目的語になっていますが、どちらも「~すること」という意味から解釈ができます。無理やり「~すること」を意識して訳し出すとすれば「ここで泳ぐことは危険だ」や「寝ることが欲しい」という感じになりますが、日本語としては不自然なのでふつうはこんな訳し方はしませんよね。
いずれにしても、(A)と(B)のto不定詞に共通しているのは「これからすること」ということです。不定詞はその見た目からも分かるように、もともとは「方向」などを表す前置詞のtoに動詞が結びついてできた形です。そのため「何かをすることに向かっている」という未来志向を表すことが多いのです。試しに(A)を「ここで泳いだら危ないよ」と訳してみると、非常に動詞的な表現であることに気が付きます。これがto不定詞の最大の特徴です。
では動名詞とはどのような違いがあるのでしょうか。
(C) This car wants repairing . この車は修理が必要だ。
(D) I want apple juice . リンゴジュースが欲しい。
(E) I like to play tennis .
(F) I like playing tennis .
動名詞はto不定詞と違って、名詞的に理解する表現です。そのため(C)にあるrepairingは「修理すること」というよりも「修理」くらいに捉えておくと分かりやすくなるかもしれません。wantの目的語にrepairing(修理)とあるので、車は「修理」が欲しい。つまり、車の修理が必要だということです。これは(D)で、「私」がapple juice(リンゴジュース)を欲しがっているのと同じ解釈の仕方ですよね。
これらを踏まえると、自分の好きなことを伝える表現として(E)と(F)のどちらが適切なのかも見えてきそうです。to不定詞には未来志向があるので、普段から頻繁にやっているような趣味を話すときには相性が良くない気がしませんか? だからこういうときには(F)にあるような動名詞を使うのです。動名詞は、「修理」のように動作を抽象的に捉えるだけでなく、自分たちの経験したことなども含んでいると考えておきましょう。
冒頭のクイズもこれと同じです。①ではto不定詞が使われているので、「これからすること」を表していますが、②には動名詞が使われているので「経験(実際にしたこと)」を伝えています。そのため、これからおばあちゃんに会うのを忘れないよう言っているのは①だとわかるのですね。
では、これを子どもたちにどのように伝えたらいいでしょうか。わかりやすいのは(C)と(D)の英文のように動名詞と名詞を入れ替えて、動名詞が「~すること」というより他の名詞で言い換えられないかと考えさせることです。その際、cookingなら「料理」、washingなら「洗濯」など、「~すること」に捉われないように訳す練習をすることで、to不定詞との違いを少し感じることができるかもしれません。
もちろん、一緒に使われる動詞によっては、to不定詞と動名詞の違いが今回のように出てこないこともあります。それでも、これら二つの文法は「同じようで実は違う」ということを子どもたちにもしっかりと伝えてあげましょう。こういったわずかな違いに気付いてそれを楽しむことができるようになると、他の文法項目についても形の違いや意味の違いに自然と意識が向くようになります。そうすれば、子どもたちは今まで以上に英語の世界を楽しむことができるようになるはずです。
神奈川県立多摩高等学校教諭
大竹保幹(おおたけ やすまさ) 先生
1984年、横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーヴン・キング。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』、『まんがでわかる「have」の本』(アルク)。
本書では、30パートの英文法の項目ごとに分かりやすい言葉で説明しています。冒頭にはクイズが用意されており、また雑学的な小話も盛り込まれているので、楽しみながら英文法を復習することができます。