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第8回:過去形だとなぜ丁寧な表現になるの?

子どもに聞かれて困らない英文法のキソ[子ども英語先生編]
2019/12/4up
子どもたちの疑問や質問の答えに窮したことはありませんか? 子どもたちに英文法を分かりやすく説明するのは、なかなか簡単ではありませんね。 ここでは、『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』(アルク刊)の著者である大竹やすまさ先生に、子ども英語の先生に向けて、本書の中から新たに加筆いただいた内容(全12回)で、分かりやすくご解説いただきます。

第8回:過去形だとなぜ丁寧な表現になるの?

Q.あなたは友人たちと食事をしています。「塩をとってほしい」と伝えるのに、適切な表現は次の①~ ③のうちどれでしょうか。

① Pass me the salt, please.

② Will you pass me the salt?

③ Would you mind passing me the salt?

日本語にあって英語にないものの代表例として「敬語」があります。日本語の「食べる」は話す相手によって「いただく」「召し上がる」など表現を使い分けなくてはいけませんが、英語のeatは誰が食べてもずっとeatのままです。「英語なら上下関係を特に考えることなく話せていいよね」と多くの人が考えてしまうのは、こういうところから始まっているのでしょうか。しかし、英語に「敬語」はなくても「丁寧表現」が存在することはわたしたち英語教師にとっては常識です。これはどうしても伝えておきたいところですよね。

英語の「丁寧さ」は主に助動詞の過去形によって表しますが、過去形は「過去」を伝えるための形なのにどうして「丁寧」な言い方になるのでしょうか。そして、このクイズの場面ではどれを言うのが適切なのでしょうか。今回のポイントはもちろん「仮定法」です。

みなさんご存知のように、英語では助動詞を過去形にすることで「仮定法」を表すことができます。

(A) I cannot drive a car.

(B) I wish I could drive a car.

(C) I wish I could.

「車の運転してもらえる?」と誰かにお願いをされたとして、(A)「運転できないんです」と正直に伝えるのは間違ったことではありませんが、あまりにもはっきりと事実を伝えているので目上の人に対しては失礼にあたることもあるでしょう。そこで仮定法の登場です。I wishと過去形の組み合わせによって、「実際にはできないことを伝える」のが特徴でした。

(B)は「運転ができればいいのですが(、実際にはできないのです)」と「できないこと」を遠回しに相手に伝えている点で、(A)より丁寧度が増していると言えます。(C)「できればいいのですが」のように動詞を省略して使えば、どんなお願いにも対応できます。

(D) Can you help me?

(E) If you were OK, could you help me?

(F) Could you help me?

仮定法はifを使って表現することもできました。(D)「手伝ってくれる?」よりも(E)「もし大丈夫なようなら、(本当はできないかもしれないけど、)手伝っていただくことはできますか?」のほうが明らかに丁寧なのは、「相手が断るかもしれない」という前提を仮定法が与えてくれているためです。

(F)ではif節が省略されていますが、「手伝っていただくことはできますか?」という丁寧なお願いに変わりはありません。助動詞を過去形にすると丁寧になるのは、仮定法のif節が省略されていたからだったと考えれば納得ですね。

冒頭のクイズもこれをもとに考えることができます。形を見てわかるように、丁寧度は①「塩取って」→②「塩を取ってくれますか?」→③「塩をとってくださいませんか?」の順で高まっていっています。ただし、今回は相手が「友人」であることが重要です。

仲の良い人に対してあまりにも丁寧に響く仮定法は、かえって「皮肉」や「いらだち」を伝えてしまいますので、ここでは①が一番自然だと言えます。②くらいでもすこし丁寧な依頼として問題ありません。相手によって言い回しを使い分けるのは、コミュニケーションの基本ですね。

では、このことを子どもたちにどのように伝えたらいいでしょうか。「仮定法」としてではなく、「助動詞の過去形は丁寧になるんだよ」というのは一番シンプルな教え方ですが、(B)のような英文を使って、「こういうセリフはどんなときで使うことができると思う?」などと使用場面を考えさせてみると丁寧さの成り立ちに気付かせることができるかもしれません。

いずれにしても、仮定法は「お金があったらいいのに」とか「鳥のように空を飛べたらいいのに」など、空想にふけるためだけの文法ではないということはきちんと伝えておきたいところです。

大竹保幹(おおたけ やすまさ)

神奈川県立多摩高等学校教諭

大竹保幹(おおたけ やすまさ) 先生

1984年、横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーヴン・キング。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』、『まんがでわかる「have」の本』(アルク)。

子どもに聞かれて困らない英文法のキソ

『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』(アルク)

大竹保幹(おおたけ やすまさ)

本書では、30パートの英文法の項目ごとに分かりやすい言葉で説明しています。冒頭にはクイズが用意されており、また雑学的な小話も盛り込まれているので、楽しみながら英文法を復習することができます。